アゴラ

「生きるって、痛みですよね」
空を仰いで、ありふれた少女はそう言った。
「生きるとか死ぬとかどうでもいいだろ?」
殺伐として、貧乏な青年は吐き捨てた。
「生きようとするからそうなる」
ただ静かに、老獪な女奴隷は嘲笑った。

「生きても跡は遺らないわ」
顔を歪めて、優しくない女教師は泣き出した。
「傷痕は意外と残るものだよ」
切実な目で、優しそうな十六歳がひとり慰めた。
「時の流れに風化されるけどね」
煙を吐いて、強がった不良少女が台無しにした。
「じゃあ僕らは、時間に生かされてるのか」
悟るように、恋する独身警備員が呟いた。

「おまえ時間の問題」
いつも君は、僕に諭すように話しかける。

「おまえ時間の無駄」
今日の君は、荒々しく僕にそう言った。

何故、
頭が痛い。

何故、
腹が痛くない。

僕は嘘で、実はいなかったのだと君に言った。
君は鏡を僕に渡したきり何も言わなかった。

何故、
僕は死ななかった。